2017年6月23日金曜日

アクリルトークンの作り方

アクリル加工とは?

アクリル板はアクリル樹脂の板を指し、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体でできています。結晶ではないのですが、透明で頑丈なためガラスの代替としても利用されたりします。

アクリル版はレーザーカッターというレーザーを照射した熱で任意の形状に切る道具で簡単に加工することができ、キーホルダーのような小物から水槽のような大きいものまで作ることができます。

ここではアクリル版を加工してゲームに使用するトークンの自作方法を説明します。アクリルグッズの制作代行業者は沢山あるのでそういう業者に依頼する事もできますが、この記事では自分で加工する具体的な方法についてのみ解説します。

流れ

アクリルトークン開発の大まかな流れは次のようになります

  1. デザインを作る
  2. アクリルや部材を入手する
  3. レーザーカッターを使える場所を見つけて手続きする
  4. レーザーカッター加工
  5. 後加工(墨入れなど)
注) レーザーカッター自体は中国製の安いもので10万円ぐらいでありますが、アクリルをカットできるレーザーは結構出力が必要で少なくとも50〜100万円のものでないと切れません。そのため現実的にレーザーカッターを購入するのは得策ではありません。最近ではMakerブーム(ものづくりブーム)により、レーザーカッターや3Dプリンターなどのプロツールを貸し出すサービスが東京都内では豊富にあります。例えばFabCafeは渋谷にあるカフェスタイルのお店で、10分800円でレーザーカッターを使用でき、待っている間は通常のカフェと同じようにくつろぐことができるお店です。

1. デザインを作る

デザインを思い付くのが最初の一歩ではありますが、これに関してはアドバイスはありませんので各自頑張って下さい(^^;

素材


作るデータはベクター形式のデータが必要です。所謂Adobe Illustratorなどの線画が必要となりますが「tech vector」などのキーワードで画像検索すると素材が得られると思います。また文字のフォントや、画像からベクター化を行ったりして作ることもできます。

ツール

無料: Inkscape

個別のツールの使い方は説明できないので、フリーソフトのInkscapeで説明します。後で説明しますが、Adobe IllustratorやCorelDRAWはレーザーカッターへのデータ送信ツールとして用意されている事が殆どなので、aiフォーマットなど上記ツールで読み込める形式なら大丈夫です。

デザイン

Inkscapeの使い方はコチラなどを参照にして下さい。簡単には次の画像のツールを良く使います。


細かいレイアウトは頂点選択をして数値を入力して合わせるのが簡単です。単位はmmにして最終的に作りたい寸法で作成します。

デザインの段階ではアクリルの色や墨入れの色を考慮して並べると良いでしょう。デザインが完了したら実寸で印刷して、最終的なサイズを確認します。


デザインに利用可能なのは、面の塗りつぶし(彫刻)と線(カット)になります。フィルとストロークの色をレーザーカッター用に変更し、テキストなどのデータを全部パスに変換します。カット線は0.1mm以下、重なっているオブジェクトは合成して一続きになるようになどレーザーカッター用に修正します。


レーザーカッターの方で色とレーザーの動作を設定できますが、デフォルトで多い設定は赤(R255)の線をカット、緑(G255)の面を彫刻とするものです。使用する場所によって違うので事前に確認しておきましょう。

最終的にデータは印刷からPDFで出力するのが確実ですが、データだけでなくPCも現場に持っていき読み込めない場合に備えましょう!

2. アクリルや部材を入手する

アクリル板

アクリル板は専門店が品揃えも良く、カット販売もしているので便利です。
アクリル版はキャストという製法のものが彫刻には向いています。板厚は2mmか3mmぐらい、サイズはA4ぐらいがレーザーカッターに収まるサイズとして適当です(これは機器のサイズに依ります)

トークン作成ならば透明タイプや蛍光タイプが良いと思います。価格も手頃なので、種類を揃えるのも手です。メーカーは数社ありますが、板厚の精度の問題があるため同一メーカーで揃えると良いでしょう。

店頭では端材を格安で販売している事もあるので、練習用に端材を集めておくと良いでしょう。

マスキングテープ(任意)

彫刻部に墨入れをする場合はマスキングテープが必要になります。最初からついている保護紙は性能が悪いので、剥がして利用して下さい。

オススメはカモ井加工紙のマスキングテープです。横幅のあるマスキングテープ自体が珍しいのですが、インテリア用だけではなく彫刻マスキングテープとしても良い性能です。マスキングテープを貼り合わせて彫刻すると段差ができてしまうので注意して下さい。



塗料(任意)

彫刻部に墨入れする塗料は注意が必要です。

アクリルは水酸基が付いた物質に弱いため、アルコールやラッカー塗料を塗布するとアクリルにクラックが生じます。例えばアクリル製のコップに酒を注ぐとひび割れてしまいます。詳しい薬品耐性に関しては例えばココを参照して下さい。

試した中ではクラックが出ない塗料は、簡単に墨入れするのならばぺんてるホワイトが、大量に作成するならばMr. フィニッシングサーフェイサーホワイトが便利です。水性アクリル塗料であれば大丈夫だと思われますが、事前にテストしてクラックが生じないか確かめてから本製作に入って下さい。(不透明アクリルならラッカー塗料も悪くありません。詳しくは墨入れの項を参照のこと)


3. レーザーカッターを使える場所を見つけて手続きする

都内ではレーザーカッターを使用できる場所がいくつかあります。月会費などを支払い工具を使用できる工房サービス、カフェに販促用として導入しているラボ系カフェ、ビジネス支援を目的としたものづくり支援事業など、形態は様々ですがデジタル加工機を個人で利用可能にしてくれています。

場所を見つけるならまとめが便利です。

以下では代表的なショップを紹介します。

ラボ系カフェ

FabCafe@渋谷が最も手軽に利用できると思います。

レーザーカッターは10分800円が最小単位ですが、コーヒーなどのセットで割引などもあるので簡単にテストするならここが一番手軽でしょう。オペレーションは店の人が全部やってくれるので、適切に加工したデータならばあっという間に出来上がります。アクリル板も15cm角のものをを販売しています。

一方、細かい指定をするのは難しい...というより満足のいくクオリティのものを作る設定は試行錯誤しないとできないので、お試しでレーザーカッターを体験するのに向いていると思います。

FabCafeでの作例。15cm角のアクリル板を2枚分ぐらいのトークンを15分で作成出来ます

工房サービス

(利用した経験のある工房がなくなったので、一般的な話になります)

Makers' Baseはものづくり工房の先駆け的存在で手厚いサポートが得られるでしょう。

一般的な工房の基本的な料金は、(1)時間でのスポット使用料または月の会費などの施設料金、(2)レーザーカッターのライセンス(使用方法のレクチャー)、(3)機材の使用料、などが掛かります。

最初は必ず機器の説明を講習という形で受ける必要があるので、すぐに作りたいと思ってもできないので注意して下さい。また機材は予約制なので、作りたいものがどれだけ工数が掛かるかなど事前に計画を立てておきましょう。

トータルで見ると費用は結構しますが、常駐の係員が最初のうちは大抵付き添ってくれるのでツールに関して苦手な方でもものづくりを無理なく始められるメリットはあると思います。(私みたいに行く前に機器のマニュアルを全部読んでおくというような几帳面な方は、不親切で安い所に行きましょう^^;)

ものづくり支援事業

SHIPは工房スタイルでありながら、事業創造の橋渡し的役割をもつ施設です。

法人しか利用できないということではなく、個人でも利用可能なので気軽に問い合わせてみましょう。例えばSHIPではレーザーカッターの使用料が540円/時間なので、今まで見つけた中では最も安価で利用可能な施設です(みんなには内緒だぞ^^)

基本的には施設使用料などが時間で請求されるだけなので、情報やサポートが少ない事を除けば工房系のサービスと同じと考えて構いません。基本的に自分で何とかできるという人が利用する施設なので、慣れたら天国のような場所になると思います。

まとめ

まずはFabCafeやLoftの&Fabなどで、レーザーカッターやデジタル加工機とはどういうものか体験してみるのが良いでしょう。一見難しそうですが、単なる特殊なプリンターでしかありません。

次に紹介したショップなどレーザーカッターが利用できる所に問い合わせて、講習を受けます。この段階で作りたいと思うデザインがあるとやる気も増すでしょう。

トークン作成のコストの大半はレーザーカッターの使用料になります。やってみればわかりますが、安く作る事を最初から実践するのは難しいです。

4. レーザーカッター加工

レーザーカッター

レーザーカッターの3大メーカーはUniversal Laser Systemstrotec laserGCC Inovationです。一般的に100万円から300万円の価格帯の製品になります。

下の写真はGCC社製のLaserPro Venus Ⅱになります。アクセサリー向け加工機で、コンパクトなのが特徴です。

LaserPro Venus II

細かい使い方は講習の方をきちんと聞いて下さい(機器や施設によって異なるため)。一般的な流れのみ説明します。

  1. PCにデータを読み込む(Adobe IllustratorやCorelDRAWが多い)
  2. レーザーカッターの電源ON、アクリル板を載せレーザーのフォーカスを合わせる(自動だったり、手動だったり)
  3. 切り出しの原点にレーザーモジュールを移動
  4. 排気装置(コンプレッサー)をON
  5. PCの印刷設定(レーザーカッターの設定)後、印刷をしてデータを本体に送る
  6. 扉を閉じて、スタートボタンを押して加工を始める
  7. 加工が終わったら、切り出した部材を取り出す
補足1) 最終的にレーザーカッターにはPostScriptで送られます。そのためデータを受けわたすのはAdobe IllustratorでもCorelDRAWでもPDFで十分と言えます。その際、線の細さやRGBでの色が設定に合っているかのみが重要となります。高級なソフトを態々買う必要はありません。

補足2) レーザーカッターはPCから見たらプリンターとして認識されています。ちょっとだけ印刷設定が普通のインクジェットプリンターと違うだけで、Ctrl+Pでの印刷をする事でレーザーカッターに指示を出します。高級なレーザーカッターではPCから特殊なソフトで操作するものもありますが、実装に大きな差はありません。

設定出し

プリンタのプロパティで設定する

レーザーカッターの原理は驚くほど簡単です。線か面に対して決まった色でパワーとスピード(とPPI)を設定する事で加工を決定します。

パワーを上げて、スピードを落とすと多くのエネルギー(熱)を与えるので、カットする事になります。(上図では赤の設定、スピード1.5、パワー95)

パワーを下げて、スピードを上げると少ないエネルギー(熱)を与えるので、表面を削る事(彫刻と呼ばれる)になります。(上図では緑の設定、スピード30、パワー45)

PPIはレーザーの通る間隔を広くするか、狭くするかで、多いほど細かくレーザーが通り滑らかな彫刻のエッジになりますが、時間が掛かるようにもなります。

大体の設定は機器ごとや素材ごとに目安となる値が用意されているとは思いますが、基本的には持ち込んだ素材に対してテストパターンを使って、カットの断面や彫刻の深さを試行錯誤で見つけなければなりません。

注意事項としては
  • アクリルは透過度(吸収率)で彫刻の深さが変わるので、色ごとに試す
  • マスキングを貼るとその分エネルギーを失うので、貼ってテストする
などありますが、1時間ぐらいは練習やテストに使うと思って下さい。

簡単なパターンで設定を試す
加工

マスキングテープで覆ったアクリル板
彫刻だけを綺麗にする場合は、保護シートやマスキングテープを外して行います。その場合、絵や文字が滑らかで反射のハイライトでしか認識できないのでトークン向きでは無くなります。

墨入れをしないのであれば、PPIを下げて浅く荒い彫刻にする事で乱反射させて文字を浮き立たせる方法もあります。

左上: 通常の彫刻、右上: 荒い彫刻
左下: スプレーで墨入れ、右下: ラッカー塗料を詰めて研磨
上の写真の通りで、通常の彫刻をすると浮き立たないのでトークンとして使いづらいです。赤いトークンはPPIを下げて荒く表面を削ったものですが、通常用途の視認性はありますが、細かいデザインは図形のエッジが立たないのであまり綺麗ではありません。

下段のトークンのように墨入れをすると視認性が向上します。塗料の入れ方は工夫が必要で、マスキングテープでマスクして入れるか、上手く綿棒ではみ出しを段差を利用して取り除くか、右下のように研磨して表面を削るなどしなければなりません。

加工の様子(掘る位置でレーザーの強度が上がり、瞬時に燃える)
量産時はタイル状にうまく敷き詰めます。間隔は2mm程度あれば十分です。

機器にも依りますが、A4の半分の面を加工すると片面で60分は掛かります。多少のレイアウトでヘッドの動きの最適化もありますが、基本的に一個作成する時間 x 個数の時間は掛かるのでテスト時に加工時間はメモしておいて、本製作の時間を見積もりましょう。

その他のテク

両面加工: 板を本体に固定して、加工後にトークンだけを取り出して裏返し、裏面データを送り加工します。但しカットした部分の0.2~0.3mmの分ずれる可能性があります。それを防ぐためにはトークンのカットサイズより0.1mm小さいカットをした治具を作る事で回避もできますが面倒です。どのみち正確に位置を合わせて板を置くのは困難なので、安易にひっくり返しても上手くいきません。

メルトカット: カット時に上手くカットスピードとパワーを調整すると、断面を綺麗にカットすることが出来ます。通常はギザギザが出てしまうのですが、これはアクリルが溶けた後に固まってからヘッドが動く事で生じます。スピードをなるべく下げて、かつパワーも下げて切ると滑らかなカット面を得ることが出来ます。レーザーのパワーが高くないとそもそもメルトカット出来ないので、気になるなら研磨したりアクリルサンデーを塗布して断面を溶解させて平滑化するなど後処理でカバーすることも出来ます。

5. 後加工(墨入れなど)

墨入れ

まずは色を入れる前に加工により生じた粉塵を綺麗に取り除く必要があります。但しテープなど粘着力が強いものを使うとマスキングテープが剥がれてしまいますし、掃除機で簡単に除去できるほど大きくありません。粘土やひっつき虫のようなもので表面を撫でてとるとマスキングテープを剥がさずにゴミだけ取れます。

左:加工直後、右:ゴミを除去
塗料は筆なりスプレーなりどちらでも構いませんが、もしマスキングテープからはみ出したとしてもラッカー用のシンナーがあれば綿棒で拭き取れる(彫刻した面に浸さなければ、クラックは生じない)ので、丁寧にやらなくても修正が効きます。

墨入れ後(はみ出しはシンナーと綿棒で修正)
塗料の乾燥後は若干強力なテープでマスキングテープを剥がしてとります。

彫刻の深さと塗料の厚さで仕上がりはだいぶん違うものになります。スプレーで仕上げるなら、彫刻を浅くした方が図柄が綺麗に見えます。筆やペンで塗料を入れるなら、彫刻を深くして塗料を多く入れると立体感が出てきます。

不透明なアクリルならばクラックを心配しなくても良いので、ラッカー塗料で厚く塗り彫刻面を完全に塗料で埋めてから、紙やすりで削ってフラットな仕上がりにすることができます(但し研磨するとアクリルの表面の澄んだ感じが失われるデメリットもある)。

まとめ

紹介したのは最小限の内容だけで、実際にやってみると色んなことを経験することになると思います。それもMakeの楽しみの一つということでしょう。何より、上記で説明したのは成功事例のみなので、失敗事例は沢山あります。アクリル板は数多く買いましたし、マスキングテープも色々買いましたし、塗料も様々なタイプのものを試しました。デジタル加工機だからと言っても、最終的にいいものを作るためには色々と創意工夫が必要です。

上記のトークンは人件費を除けば一個あたり20~30円ぐらいで出来ます。私も最初は「買うより作った方が安いだろ!」と取り組んで見たものの、そんな事はありませんでした(笑)...だから、Etsyなどでアクリルトークン販売されているのを見ると「安っ!」としか言えませんね。

オリジナルトークンは愛着が湧き周囲の目も引きます!
それでも自分だけのトークンを作れるというのは何よりも楽しい事だと思うので、気が向いたらチャレンジしてみてください!(^^)b

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